【校長あいさつ】
　大学生を見ていると２種類のタイプがいることがわかります。就職活動を首尾よく要領よくこなすことができる人と、そうではなくそこでモヤモヤしてなかなか先に進めない人。モヤモヤしてしまう人は劣等感や挫折感を味わいがちですが、私はそのモヤモヤこそ大事なことに気づくきっかけであり、彼らは智慧ある人になる入り口にいるのだと思います。「いい大学に入れば大企業に入れる。そうすれば人生安泰」という方程式はもう過去のものです。人口が減り始め、経済も成長しなくなった日本では、大企業といえども終身雇用・年功序列は維持できず、決して「安泰」ではありません。「いい会社」に入れば自動的に「人生が開ける」ということはないし、逆に「いい会社」に入れなければ「人生が開けない」ということもありません。

　いったい、「人生が開ける」とはどういうことを言うのでしょう。多くの人は、仕事はおカネを稼ぐためのガマンの時間、そのおカネを使って休日にやりたいことをやるというライフスタイルです。これでは「人生が開けている」感じはしませんね。やりたいことが仕事になり、おカネも稼げる。そういう暮らし方は決して夢物語ではありません。

　そうは言っても、「自分がやりたいことってなんだろう」と考え込んでしまう人もいるでしょう。でも「特にやりたいことはない」という人は幸いです。「ちょっとこれやってくれない？」という頼まれ仕事を、こだわりなく「別にいいですよ」とやっているうちに、だんだんおもしろくなって、「そうか、これが自分がやりたいことだったんだ」と気づくこともあります。でもそういう展開になるためには、自分に何かを頼んできてくれる地域の人たちや仲間たちが必要です。戦後の経済成長の中で、そういうコミュニティあるいは「群れ」がなくなってしまったところに、私たちの生きづらさの根本的な理由があるのではないでしょうか。

　ミライの職業訓練校では日々の仕事や暮らしの中で感じるモヤモヤをスルーせずに深めます。そして自分はこういうことがしたいのかもしれないと思うことを「仮説」として設定し、小さく行動を起こしてみます。そのことで「仮説」を検証し、再考を繰り返す「仮説転がし」をやります。「仮説」が勝手に転がっていくようになればしめたもの、次のステップが見えてきます。

　ミライの職業訓練校では「否定しない（人も自分も）」、「結論を出さない」というルールのもとで、参加者どうしが安心して話し合い学びあうことをひたすら追求します。また田舎で「仮説」が転がり、生き生きと暮らし働く先輩たちの姿に触れます。これらは、心地よい「群れ」を作るささやかな試みとも言えます。その「群れ」の一員として、あなた自身の次のステップを見つけてみてください。

校長　高野雅夫（名古屋大学大学院環境学研究科教授）